王太子からの再婚約を迫られたが、カイルの助言もあり、きっぱりと断るアリシア。しかし、アリシアは自分の力で婚約破棄にかくされた陰謀の真実を掴もうと決意する。
第四章 引き裂かれた絆
アリシアがカイルと心を通わせる日々が続く中、再び王太子アルフレッドが彼女の前に現れた。突然の訪問に驚きつつも、彼女は毅然とした態度で彼を迎えた。だが、次の瞬間、アルフレッドが口にした言葉にアリシアは愕然とした。
「君との婚約は、実は誤解があって取り消したんだ。もう一度やり直そう」
そして、新しい恋人が王太子妃教育の厳しさから逃げてしまったこと、その養父が宰相として自分をないがしろにすること、その様子に他の貴族たちが登城しなくなったことなど、延々に話した。その話に、アリシアの胸は痛んだ。彼の冷たい言葉に傷つき、没落した家の現実と苦しみを抱えてきたこの数週間を思い返すと、簡単に許せるはずがなかった。だが、家の立場を考えると、彼の提案を断れば、ますます家の立場が危うくなる可能性もある。アリシアは葛藤に揺れる自分に苛立ち、言葉を詰まらせた。
そんな中、カイルが静かに現れ、アルフレッドと向き合った。カイルの落ち着いた態度は威厳があり、彼がただの王子ではないことを感じさせた。アルフレッドはカイルの存在に気づき、冷たい視線を向けながら、「おまえには関係ない。カイル」と言った。
「そういっていいのかな。アルフレッド。君の父上の国は、私の父の国にどんなに依存しているか。そして、今は、私はアリシアの友人だ。アリシアとアリシアの家の名誉のために私はなんだってするさ。」カイルは堂々と答えた。その言葉にアリシアは驚き、カイルが自分のためにここまで動いてくれていることに気づき、胸が熱くなった。
アルフレッドが退いた後、カイルは静かにアリシアの隣に立ち、湖を見つめた。彼は少し沈んだ表情を浮かべていたが、やがて口を開いた。「アリシア、君が選ぶ道は君の自由だ。でも、僕は君が誰かに流されるのを見たくない。君の本当の気持ちを大事にしてほしい」
アリシアはカイルの言葉に励まされ、再び自分の心に問いかけた。
カイルとアリシアが湖で釣りをする時間は、アリシアにとって唯一、心が穏やかに戻るひとときとなっていた。
ある日、魚がなかなか釣れず、アリシアは少し苛立ち始めていた。
「…つれないわね」
湖に向かってぼやくアリシアに、カイルは穏やかに笑みを浮かべて、「釣りって、ただ魚を釣るだけじゃないんだよ。待つことも大切な楽しみなんだ」と言った。
二人は湖畔に腰掛け、時間をかけて魚がかかるのを待ったが、10分、30分と過ぎても動きはなかった。しびれを切らし、立ち上がりそうになるアリシアに、カイルは静かに話しかけた。
「釣りには忍耐が必要なんだ。結果がすぐ出なくても、自然の一部と触れ合う時間が、大切な体験になる」
彼の言葉に少し落ち着きを取り戻したアリシアは、湖の静かな水面を眺め、少しだけ心の焦りを手放した。ふと遠くを眺めると、彼女の目に映る景色が新鮮に感じられた。カイルといることで初めての体験を重ね、釣りも少しずつ楽しさを見出せるようになっていたのだ。
その時、不意にカイルの釣り糸がピクリと動いた。彼は慎重に竿を握りしめ、ゆっくりとリールを巻き始めた。カイルの手つきは確信に満ち、目を見張るような集中力が感じられた。
「見てて、アリシア。魚がかかった時にどう対応するか、それも釣りの技術なんだ」
彼がリールを引き寄せると、ついに大きな魚が姿を現した。アリシアは驚きと共に、その瞬間に釣りの楽しさと達成感を感じ取った。魚を釣り上げた喜びと、待つことで得られた満足感。それは彼女にとって、初めて味わう感覚だった。
その後、二人は休憩を取るために釣り場を離れたが、アリシアの心にはひとつの決意が芽生えていた。
「カイル、あなたの言う通りね。待つことや自然と向き合うこと…それも、釣りの魅力なのね」
彼女はカイルの言葉を胸に秘め、自分の家の無実を証明するために、陰謀の背後にある真実と向き合う強い意志を再確認した。

王太子アルフレッドは、長男として大事に育てられたから、世間知らずなんだよね。国王はしっかりもののアリシアを妻にすれば、王国は安泰だろうとおもっていたみたいだけど。悪い家来がいて、陰謀に巻き込まれてしまって。ちょっとかわいそう。
このお話の知識編はこっち「釣りをやったことないのに子どもに釣りをやってみたいと言われた親の話#4」にあるから。読んでね。