2章:きっかけは一杯のコーヒー
昼休みのチャイムが鳴り響くと、頼朋はデスクで伸びをしながら、目の前に置かれた資料を片付けた。午前中から続いたクライアントとのミーティングは、相変わらずタフだ。提案したプランに対して「悪くはないけど、もっと斬新なアイデアを」と求められ、次回のプレゼン準備が頭を離れない。
「さて、今日は何を食べようか」
部下たちはオフィス近くの人気ラーメン店に向かうらしいが、頼朋は一人で会社を出ることにした。最近、彼は昼食にちょっとした制約を設けている。節約のためでもあるが、それ以上に体重がじわじわと増え続けているのが気になっていたのだ。
頼朋の昼休みのルーティン
オフィスを出て数分、頼朋は高層ビルの1階にあるカフェに入った。いつものようにレジで注文したのは日替わりサラダとホットコーヒー。それに小ぶりなパンを一つ。「820円か…」レシートを眺めながら、小さな罪悪感が胸をよぎる。ここ数年、健康志向と節約意識の板挟みで、「外食費を抑えつつバランスの取れた食事を」と心掛けているが、どこか満たされない。
本当は駅近くの立ち食いそばが好きだ。400円で満腹になれるし、出汁の香りがどこか懐かしい。しかし、部下や同僚に見られるのが気になって足が向かない。「課長ともなれば、それらしい店で食事をしているほうが格好がつく」というくだらない見栄を捨てきれない自分に、頼朋は少し嫌気が差していた。
コーヒーが教えてくれた言葉
注文を受け取ると、窓際の席に腰を下ろす。隣のテーブルでは若い女性たちがキャリアの話で盛り上がっていたが、頼朋の耳には入らない。彼の目は、目の前の壁に貼られた広告に釘付けになっていた。
「投資を始めて、未来を変える。」
簡潔で、どこか挑発的なその言葉が彼の中で何かを引き起こした。「投資か…」心の中で繰り返してみる。学生時代に経済学の授業で聞いた程度の知識しかないが、それが自分の生活に関係するとは思っていなかった。「けど、どうしても貯金が貯まらない現状を変えられるんだろうか?」
彼はiPhoneを取り出し、広告に記載されたURLを検索してみた。そこには初心者向けの投資ガイドが並び、「NISA」「つみたて投資」「投資信託」といった言葉が踊っている。
「少額から始められるのか…」
頼朋は無意識にページをスクロールし続けた。「どうせ自分には関係ない話だ」と思いながらも、画面を閉じることができない。それは彼にとって、新しい可能性の扉を開くような感覚だった。
コーヒーカップを手に持ち、ぼんやりと窓の外を眺めた。人々が行き交う大都会の景色は、どこか自分の置かれた状況を象徴しているようだった。忙しく動き回っているのに、どこに向かっているのかわからない。「このままではいけない。」胸の奥で小さな声がそう囁く。
証券口座を開設するには少し調べる必要があるらしいが、やってみる価値はありそうだ。ランチタイムが終わる頃、頼朋は「今夜、真紗子に相談してみるか」と思いながら席を立った。
新しい種が蒔かれた夜
その夜、家に帰った頼朋は、リビングでくつろぐ真紗子に思い切って話を切り出した。iPhoneを見ていた真紗子が顔を上げる。「ねえ、真紗子。投資って知ってる?」
「え?何その話。」突然の話題に、彼女は少し眉をひそめた。「投資って、なんだかお金持ちの人がするイメージよね。私たちみたいな普通の家庭には関係ないんじゃない?」
頼朋は少し熱っぽく反論した。「いや、違うんだよ。少額から始められるし、将来のための資産形成だってさ。特にNISAとか、調べてみたら結構簡単に始められるみたいだぞ。」
真紗子は少し興味を持ったようだが、まだ半信半疑だった。「でも、うまくいかなかったらどうするの?私たち、今の生活だって余裕があるわけじゃないのに。」
頼朋は言葉に詰まった。確かに、その懸念は否定できない。しかし、行動しなければ何も変わらないのも事実だった。
リビングの照明の下、頼朋と真紗子の会話はしばらく続いた。最終的には「まずは小さな金額から試してみる」という結論に落ち着いた。
その夜、ベッドに横たわりながら頼朋は思った。
「この一歩が、俺たちの未来を変えるかもしれない。」
翌朝、いつもより少しだけ足取りが軽い自分に気づきながら、彼は仕事へ向かった。
──たかが一杯のコーヒーから始まった小さな変化。それは、大きな未来への種となる。

頼朋は「よりとも」って呼ぶんだ。源頼朝とおなじ名前だね。びっくりだよ。このストーリーは、「おとな世代のための賢い投資スタートガイド #2」を架空の家族で再現しているだよ。続けて読んでくれるとうれしいよ。